軌道破壊。

藤井太洋さん2作目

「Gene Mapper」(感想はこちら)に続く藤井太洋さんの2作目が、この「オービタル・クラウド」です。前作ではデビュー作ながら、緻密で高度な設定を使いこなし、テクノロジーが演出する物語を鮮やかに描ききってみせてくれました。

今作では、前作の様に作者のバックグラウンドであるテクノロジーの魅力をそのままに、エンターテイメント性をパワーアップさせてきたという感じです。

舞台はほぼ現代。出てくるテクノロジーもRaspberryPiなど、現実にあるものが多いです。こういうガジェットが出てきてくれると、知っている人は嬉しいと思います。前作はもうちょっと進んだ未来だったので、今作の方が現実感がある感じでした。ただし本筋の宇宙関連のテクノロジーは、現代よりも進んでいます。

映画的

エンターテイメント性が増したと書きましたが、この作品は読んでいてグイグイ引き込まれました。複数の人の視点で少しずつ区切って物語を進める形式ですが、区切りごとに”引き”を意識していて、週間連載の漫画のように続きが気になりました。

展開はハリウッド映画的だなあと思いました。無名のエンジニアが、ひょんなことから事件に巻き込まれ、その中でエリートに実力を認められて地球を救う的なところが。ちょっと映画化を意識したのでは無いかと思ってしまいました。

テンポが良く、アクションもあり、2時間くらいの映画にちょうどいいのではと思います。多分作者もテンポを重視して、細かい部分は省いたところがあると思います。もちろん、映画化するには小説から更に省かないといけないと思いますが。

展開もそうですが、ビジュアル的に映像化したら映えそうなシーンも沢山あります。プロジェクターで衛星の軌道を映すシーンや、軌道ホテルのシーン、ラストのメテオのシーンなど。裏を返せばこれらのシーンは映像化する場合には苦労しそうです。実写映画が難しければ、アニメ映画でも見てみたいです。

キャラクター

前作でも思いましたが、キャラクターはとにかく優秀な人が多いです。皆なにがしかの専門家で、特殊技能を活かした活躍の場が出てきます。ここらへんもおそらく作者の経歴が影響しているのだと思います。

キャラクターが優秀なので問題解決が早く、テンポよくサクサク進んで良いのですが、全体のバランス的にはサクサク進み過ぎな感じもありました。停滞した感じが無いので、問題が解決した時のカタルシスが無いというか。ここらへんは意図して省いているところなのかもしれません。

あと優秀で物分りの良い人が多いので、登場人物のバランス的にはもう少し崩すキャラが居ても良いかなあと思いました。真の対立が無いというか、プロフェッショナル然としていてドライというか。まあここらへんを物足りないと取るか、無駄な要素と取るかは好みのレベルでしょう。

テクノロジー

宇宙関係は別として、地上で使ったテクノロジーはあり得る範囲で描いていて、作者の技術リテラシーの高さが伺えます。藤井太洋さんは、本当に突飛なアイデアで勝負するというよりも、本当に有り得そうな技術戦を理論武装してしっかり描いてくれるタイプだと思いました。

実際にありそう(又は本当にある)ものを使うのは、素材が身近にある分ごまかしが効かない大変さもありそうだと思いました。ぜひ現実の技術の進歩を取り入れつつ、このスタイルを貫いて欲しいと思います。

関連書籍

総括すると今作は読み始める前の期待を大きく超えるものでした。とても満足です。というわけで是非次の作品も読んでみたいと思います。期待値は上がりましたが、きっとそれを超えてくれるであろうと思っています。欲を言えば、救いようのない悪や、憎めないバカキャラとかも書いてくれたらなあと。

カテゴリー: 本の感想

memom

都内在住会社員。 物心ついた時から読書好き。 読んだ本を忘れない様につらつらと感想を書いていきます。

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