日本人のアイデンティティ。

機内で読んだ本

今年の夏休みは海外へ旅行に行き、行く前に機内で読む用の本をKindleに何冊か入れておきました。その中の一冊がこの「カブールの園」で、行きと帰りの機内で最後まで読みました。余談ですが、こういう時Kindleは便利ですね。

この本には2篇収録されていますが、2篇とも海外で暮らす日本人の生き方がテーマにあるお話だったと思います。それとは知らず購入したのですが、日本を離れた時に読む本として、なかなか良いチョイスでした。同じテーマが貫く連作のようなものだと思って読みました。

作者はこのブログで何回か紹介している、SF作家の宮内悠介さんです。表題の「カブールの園」の方には、VRなど少しSF要素が出てきますが、もう一つの「半地下」はSF要素無しです。今回の作品は両方共、作者がSF以外の要素を読ませたかったのだと思います。

海外の日本人というテーマは、おそらく、作者自身の海外生活の経験が反映されているのではないでしょうか。

カブールの園

表題作です。ロサンゼルスに暮らす日系三世のお話。SF要素はVRを用いた精神治療の様子が出てくるところくらいで、主人公の日系人としての葛藤が物語の中心になっています。時代設定もほぼ現代だと思います。第二次世界大戦の話も出てきて、日系人の歴史を背景に語られていきます。

自分も祖母から戦争の時の話を何度か聞いたことがあります。その時の対戦国に対する思いは、経験したその時代の人でないと分からないことがあるんだろうな、と思って聞いていました。この物語でも、3代に渡る世代間のギャップが描かれています。

VRを用いた治療として、昔の思い出をVRで再体験するというシーンが出てきます。VRがエンターテイメント以外でどのような使われ方をするのか、というのは自分も興味があるところです。先日新宿駅で、視覚に障害がある人がどのような見え方をするのかという、体験コーナーを開いているのを見て、少しそのことを思い出しました。障害や事件などの出来事を体験して共感するためのツールとしては、可能性があるかもしれません。

半地下

収録されているもうひとつの作品です。SF要素はありませんでした。思えば、宮内さんの他の作品も、テクノロジーで織りなすSFを書きたかったというよりも、SFを散りばめつつ人間を中心に据えて、人間を描いた作品が多かったような気がします。

この作品はとても印象に残りました。全体としては死や喪失を描いた作品だと思いましたが、悲しみや人間ドラマを見せたいのでは無いと思いました。そういう刹那的な感情ではなく、失ったという経験を経て残ったもの、これから抱えていくものは何かという、永続的なものを見せたかったのだと思います。主人公の語り口も、全て終わった後の視点で、時間的な距離を置いて客観視されています。

ストレンジャー

この2作品に書かれていることが、日本人に特有のものなのか、日本人以外にも言えることなのかを考えてみました。戦争や文化的な背景を使って書かれている部分もありますが、本質的には異国でのストレンジャーをテーマに描いた、普遍的な物語なのでは無いかと思いました。

日本に居ると人種の問題は遠い国の話のように感じますが、アメリカなどの人種が多様な国のほうが、リアリティを持って共感できるかもしれないと思いました。また、日本でも海外の方の行き来が活発な傾向にあり、イベント的には2年後のオリンピックもあります。多様な人種に対する理解は、深めていくべきだと思いました。

関連書籍

VRが出てきたので、関連する以前から気になっていた作品を紹介しておきます。「雲南省スー族におけるVR技術の使用例」という作品で、タイトルだけで面白そうだなと思っていました。昨日購入したので、読むのが楽しみです。

次の宮内作品は、「彼女がエスパーだったころ」を読む予定です。だいたい、刊行した順番に読んでいて、その作者の作品がどう変わっていったかが追えて、面白いです。

カテゴリー: 本の感想

memom

都内在住会社員。 物心ついた時から読書好き。 読んだ本を忘れない様につらつらと感想を書いていきます。

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