’10年代に見た未来。
元WIRED編集長
WIREDという、テクノロジーを中心に未来を語る雑誌の日本語版が、2017年12月に休刊になりました。編集長を務めていた若林恵さんが退任し、2018年4月に自身の記事を集めた本を発売しました。
自分はWIREDという雑誌が好きで、特に冒頭の若林さんのコラムを読むのを楽しみにしていました。休刊は残念ですが、若林さんの記事を集めた本が出たのは嬉しく、本屋で見てすぐに買いました。この本には、WIRED以外の記事も収録されています。
WIREDという雑誌は、ちょっと意識高い系の雑誌に見えて、実際そんな感じもします。しかし、若林さんの書く記事は、悪い意味で使う意識高い系にならないように、中身や本質にこだわった内容にしていると思いました。
昨今、特にテクノロジーの世界では状況の変化が早く、誰しもが最新事情についていこうと躍起にやっている感があります。その中で若林さんの書く文章からは、ぶれない”芯”を感じました。耳障りの良い流行り言葉が溢れかえっている中から、冷静な目で本質を見つめようとする姿勢を感じました。だからこそ、WIREDという雑誌を信頼して読んでいました。紙の雑誌が休刊しただけで、Web版の方はまだ続いています。
544ページでなかなか分厚く、持ち運ぶのに少し苦労しました。平均して一記事2〜3ページくらいで、時々10ページくらいの長い記事がありました。カバンに入れておいて、一記事ずつ区切って読み進めていくのが楽しかったです。持ち歩いていた時は、ブックファーストのカバーを付けていたのですが、装丁もいい感じなので、机の脇にさり気なく置いてあるとかっこいいかもしれない、と思ってみたりもします。
それぞれの記事について
この本には、2010年から2017年までの記事が、時系列に収録されています。最初の方の記事は、東日本大震災やスティーブ・ジョブズの死について触れられていて、もはや少し時代を感じました。雑誌で読んだ記事と読んでいない記事があって、「この記事覚えてる」とか思い出しながら読めたのが、楽しかったです。
扱うテーマは、若林さんの趣味が強く出ていそうなものもあるなと思いました。実際違うのかもしれませんが、結構自由に書いていたのかなと想像しました。特に音楽の話になると、嬉々として語っていたのではないかという空気感が伝わってきます。自身のブログで書き連ねた、ブックオフで買ったCDのレビューセレクションの記事があるのですが、趣味嗜好爆発という感じでした(この記事が一番長かった)。もうブログは更新していないとのことですが、検索すると見つかります。
自作自演のインタビュー形式の記事もあり、質問も答えるのも同じ人だと思うと、面白かったです。漫画でよくある表現の、脳内会議を覗き込んでいるような気分でした。ツッコミ役を作れるのは、文章を書く上では便利でいいかもしれない。
いくつか印象に残った記事がありますが、特に印象に残ったのは「ベスタクスの夢」というタイトルの記事でした。椎野秀聰という人の仕事について語った記事で、若林さんの、椎野さんに対する尊敬の念と思い入れの強さが伝わってきます。椎野さんの仕事に対する姿勢からは、学ぶべきところが沢山あると思いました。
最後の方に、編集長職の解任が決まったあとに書かれた記事があります。これはWebにも公開されています。
WIREDの日本版は編集長が変わり続いていますが、年内に復刊予定の様子。
関連書籍
「さよなら未来」の中では、何人かの思想家が出てきますが、イヴァン・イリイチという人に興味を持ちました。文庫で著書が出ていたので購入し、まだ読んでいませんが読むのが楽しみです。
WIREDレーベルの本は、「ぼくらの新・国富論」という本が出ていて、これもおすすめです。