奥深い、実験的な、オススメの一冊。

寄藤文平さんの本

自分は、実家に帰る時は新幹線で帰ります。その新幹線の中で、面白くてどんどん読み進み、2時間半ほどでほとんど読んでしまったのが、この本です。2012年の冬に出版された本で、年末に帰るときに読んだことを、よく覚えています。

読み終わったあと、この本はすごいなあ、と思いました。今、また感想を書くために、久しぶりに目を通していますが、改めてすごいなあ、と思っています。

同時に、内容を実はあんまり覚えていなくて、今新鮮な印象を受けたことに驚きました。6年くらい前に読んだ本なので、そういうものなのかもしれませんが。新鮮に感じた理由は、言語化しにくい、絶妙な感覚のことについて書いてあるからじゃないか、と思いました。本を読んでいるときは、不思議な心地よさがありますが、本を閉じると、その感覚を捕まえ続けるのは難しい。読書体験中としては、すばらしい時間を与えてくれる一冊だと思います。

著者は、イラストレーターの寄藤文平さんです。寄藤文平さんというと、ホンワカした感じのイラストが思い浮かびますが、この本を読むと、結構突き詰めた考え方をする、鋭い人という印象を受けました。鋭い感性を持ち、強い目的意識が無いと、この業界で売れっ子にはなれないんだろうな、と思いました。

内容は、寄藤さんが自身の過去の仕事を振り返り、思ったところをまとめた本です。こんな書き出しで、この本は始まります。

もともとは、デザイナーをやめようかと考えて、この本を作りはじめた。

寄藤さんが、仕事に息苦しさを感じていた時期があり、そのときに整理したことが書かれているそうです。だからこの本を読んで、突き詰められた、鋭い考え方をする人だ、と感じたのかもしれません。

この本のすごさ

この本をすごいと思った理由は、考えて挙げていくといくつかあるのですが、一番は、そのいろんなすごいところが、一冊の本にバランス良く収まっていることだと思いました。それでいて、この本では、新しい”攻め”の姿勢みたいなものを感じました。実験的な印象も受けましたが、寄藤さんが言いたいことを、自由にそのまま表現している感じです。

この本は、文章のページと寄藤さんのイラストのページで、構成されています。見開き両方文章、というのは少なくて、大抵が半分文章、半分イラストでした。その文章の内容とイラストで伝えていることのバランスが、なんというか良いのです。

イラストは、赤い線で、クレヨン(?)みたいな線で描かれています。例の、寄藤さんが描いたと分かるおなじみのイラストは、やはり味があって良いと思いました。ある時はちょっとシュールに抽象的な内容を伝えたり、ある時はリアルな感じで描かれています。伝えたいことを鮮やかに伝えているイラストには、時々、芸術性さえ感じました。伝わる絵を描ける人はすごいなと、再認識させてくれます。

もう一つ、この本をすごいと思った理由を挙げるなら、寄藤さんが妥協せず考え抜いたことを、自分の言葉でそのまま書いている、と思ったことです。壁にぶつかり、試行錯誤した様がそのまま伝わって、最後は何らかの答えにたどり着いた様子が、リアルに感じました。

特に印象に残ったのが、「わかるとわかりやすさ」の章でした。この章に書いてあることは、寄藤さんが考えた末に到達したことなので、ただ読んだだけの自分が、本質的に理解できているかわかりません。ですが、何かを「わかる」ということに関して、とても大事なことが書いてある、という予感がしました。

本の装丁

この本で一番実験的だと感じ、楽しめたのは、「本と装丁」の章です。赤瀬川原平さんの著作「千利休 無言の前衛」の装丁を考え、いくつものアイデアを載せている章ですが、読んでいてとても楽しくなります。沢山のアイデアを、コンセプトから説明していて、考え方は他のものにも応用できそうだな、と思いました。

本の装丁は、電子書籍には無い、紙の本ならではの魅力だと思います。電子書籍にも表紙の画像はありますが、物質としての本で、一番最初に目につく部分であるという意味は大きいと思います。本屋に行ったときに、内容を見る前に、装丁で「なんかいいな」と思って買うこともあります。CDで言うところの、「ジャケ買い」ですね。

本の紹介

いくつかの章の中に、ブックレビューの章があります。その章では、文章中心ですが、これがまた良いです。素直な文体で、飾らず、分かりやすい文章だと思いました。ときどき出てくるエピソードやたとえが、とても内容を分かりやすくしていると思いました。紹介されている本を、すごく読みたくなりました。

実際、ここで紹介されていた本は、ほとんど読んでしまいました。

  • 「千利休 無言の前衛」
  • 「日本の弓術」
  • 「シリコンバレーから将棋を観る」
  • 「調理場という戦場」
  • 「ものぐさ精神分析」
  • 「世界を、こんなふうに見てごらん」
  • 「伽藍とバザール」

あとは、「共在感覚」と「第三の波」だけです。「共在感覚」は見つけましたが、「第三の波」はずっと探していて、いまだ見つかっていません。古本屋とかに行くと、ついつい探してしまいます。

関連書籍

今回は、この本で紹介していた、上記の本のリンクを載せておきます。

カテゴリー: 本の感想

memom

都内在住会社員。 物心ついた時から読書好き。 読んだ本を忘れない様につらつらと感想を書いていきます。

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