この世界のルール。

新時代のSF

前作、「ユートロニカのこちら側」に続く、小川哲さんの2作目。前作の感想も書きましたが、今作はレベルが違うと思いました。前作も完成度高かったですが、今作はSFの新たな時代を切り開いている、と感じさせるようなものでした。

完成度も高く、あらゆる要素が影響し合って織りなす物語は、今まで読んだことが無かったです。うまく言えませんが、単純に設定が上手いだけでなく、一見関係なさそうな設定同士を組み合わせて、予想もつかないところで相乗効果を発揮させてきて、はっとさせられました。

SF界の新星、小川哲

べた褒めですが、今作は、作者の才能を爆発させた作品だったと思います。”小川哲”でググってみたら、写真付きの記事がありました。意外と渋い感じなんですね。

カンボジアの歴史

この作品の舞台は、1950年代〜2020年代のカンボジアです。自分は、この本を読むまで、カンボジアの大量虐殺のことなど、知りませんでした。ポル・ポトという名前を知っていたくらいで、何をやった人なのか、知りませんでした。カンボジアという国についても、アンコールワットがある国、程度の知識でした。

虐殺について、つい最近まで、このようなことが行われていたとは、知りませんでした。それを知るきっかけとしても、この本を読んで良かったと思います。ポル・ポトの政治については、ググると沢山でてきます。

最近、どこかの講演で、日本人は平安時代とかよりも、近現代史を学べ、という意見を聞きました。確かに、今の国際情勢に直結する事実として、近現代史はもっと強化してもいいと思いました。自国のことだけでなく、他国の近現代史も、意識して学んだほうが良いと思いました。

ゲーム

この本では、ゲームのルールが大きなテーマになっています。上記リンクのインタビューで、作者も語っていますが、規則・ルールとはなんなのかを、考えさせる狙いがあったそうです。

ゲームを人生になぞらえる、ということは昔からある表現だと思います。この本では、そういう表現の比喩的な部分を利用したのではなく、世の中の本質的な構造に着目し、描いたと思います。遊びとしてのゲーム、政治の中のゲーム性など、様々な事柄の中からゲームを見出し、一つの物語の中に巧みに織り込んでいます。

印象に残ったのが、「人生」というゲームの場面です。紙とペンだけがあればできるシンプルなゲームですが、シンプルであるがゆえに、奥深さを感じます。実際に、やってみたくなりました。この本を読んだ人同士だったら、絶対やってみたくなるでしょう。

また、「チャンドゥク」というゲームのコンセプトも、すごいと思いました。こういう設定を考えて、成り立たせるのは、SF作家として技量がある証だと思います。理論や、仕組みなど、説得力十分でした。

ラスト

強いて言うなら、ラストはちょっと強引に終わらせたような気がしました。いまいち、ソリヤとムイタックが、互いに入れ込むほどのことがあったかな、と思ってしまいました。しかし、自分はこの作品に限っては、キャラクター同士の物語と結末は、いわばサブ的な扱いとして読んでいました。この作品のメインのメッセージは、やはりゲームを軸に人生や世の中の構造に問をかけているところだと思ったからです。

それに、名作であればあるほど、ラストってあっけなく感じるものだと思います。推理小説のように、結論が大事であれば別ですが、ほとんどの小説は過程を楽しむ様に出来ているのかな、と思います。あと、好きな作品ほど、終わらないでくれという気持ちがあるので、ラストで満足できなかったりするんじゃないでしょうか。

これが、映画とかであれば、最初から最後まで一気に見るので、クライマックスに満足感を持ってくるのは大事だと思います。小説というのは、少しずつ読む場合もあるし、途中で読むのを止めてしばらくしてから再開する場合もあります。その場合、読者にとってはどこが「読書体験の最後(区切り)」になるか分からないので、ラストで大盛り上がりさせることだけに集中する必要は無いのかな、と思いました。それよりも、読書体験中の色んな場面で、考えさせられたり、楽しい時間を過ごさせてくれることが、大事なのではないかと思います。

もちろん、自分も、ラストに全てが集約していって、盛り上がる物語も好きです。全然ジャンルが違いますが、三浦しをんさんの「風が強く吹いている」とか、ラストらへんは止まらなくなって、一気に読みましたね。

注目のSF作家

前作の感想で、もうちょっと軽めの題材とかでも良いような、と書きましたが、生意気言ってごめんなさいって感じです。今作では、カンボジアの歴史や、ゲームや人生の哲学といった難しい題材を、見事傑作に昇華させています。凡人には、そこまでイメージができませんでした。是非、このまま突っ走って、小川哲ワールドを読ませてください。

今、SF界で特に注目しているのは、宮内悠介さんと小川哲さんです。宮内さんは作品をバンバン出しているし、小川さんも次の作品が楽しみです。


memom

都内在住会社員。 物心ついた時から読書好き。 読んだ本を忘れない様につらつらと感想を書いていきます。

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