問題発見への道を、明るく照らす。
薄くても濃い本
社会人になりたての時、要件定義とか、要求仕様とかの本を探していて、大学でお世話になった先生から教わった本。本の160ページ程度の薄い本で、文字も大きめなのですぐに読めると思います。
ですが、自分は読むのに時間がかかりました。何故かと言うと、文字は少なくても内容が濃く、一つ一つ立ち止まって考えたり、いちいち発見があって驚いて読んでいたからです。全てのページの内容を覚えたいと思うくらい、大事な内容が圧縮された本だと思います。
この本は、幾つかの問題解決のエピソードがあり、その中で、「本当は何が問題だったのか」、「問題を見つけるためにどうするべきなのか」ということを読者に伝える内容になっています。多くのエピソードは、最初から問題が明らかになっている”風”で、その問題を解決すること”だけ”かの様に始まります。しかし、各エピソードの登場人物は「問題は何か」ということに立ち戻って考える必要に迫られます。
「解決」の方にだけ目が行きがちですが、往々にして「発見」や「定義」の方が、重要だということに気が付かされます。
格言
エピソードの中で、問題発見のために重要なポイントが、格言として強調されています。自分は、この格言は全て記憶したいくらいだと思いました。自分が特に好きな格言を、紹介したいと思います。
問題とは、望まれた事柄と認識された事柄の間の相違である
この「望まれた事柄」と「認識された事柄」が何なのかを考えることで、問題が明らかになります。そうすれば、この2つの事柄を変えることで、問題を解決することが可能になることに気が付きます。
彼らの解決方法を問題の定義と取り違えるな
問題解決を依頼された時、既に問題が定義されていると考える前に、今一度定義することが、大事なのだと思います。
結論に飛びつくな、だが第一印象は無視するな
結論に飛びつくのは、自分もよく仕事で指摘を受けます。また、第一印象は薄れていくもので、それを持ち続けるのは努力が必要だと思います。
もしそれが彼らの問題なら、それを彼らの問題にしてしまえ
ここで言う「彼ら」とは、自分と相手の事を指しています。どちらかの問題ではなく、両方の問題であるという事を認識させれば、上手く解決の方向に進む場合があるかと思います。
正しい問題定義が得られたという確信は決して得られない。
だがその確信を得ようとする努力は、決してやめてはいけない
自分がこの本の事を考える時、真っ先に思い出すのがこの格言です。決して到達できないと分かっているゴールに向かって、進み続けろと言っているのだから、随分厳しい言葉だと思います。ゴールがないのにマラソンしろと言っているようなものだと思います。
これは、人生の一つの真理を言い表しているような気がします。理不尽に感じるけど、これを受け入れた時に、理屈や損得だけで動くレベルから、もう一段高いレベルに行けるような気がします。なので、自分にとってある意味で、希望を与えてくれる言葉になっています。
他にも、まだまだ印象に残る格言がありました。一つ一つの格言は、それが出て来るエピソードを読んで理解が深まる様になっていると思います。興味があれば、是非、通して読んでもらいたいです。
バランス
自分は今まで読んだ本の中でも、この本は最も好きな本の1つです。その理由は、本の作り方のバランスです。
感覚的な話なので、伝えきれるか分かりませんが、省略しすぎず、難しくしすぎずのバランスが絶妙だと思うのです。同じ内容を、難しい言葉を並べたて、分厚い本にすることもできたと思います。しかしこの本は、適度に省略し、伝えたいことが伝わるエピソードを選び、大事な要素を損ねること無く、本の軽量化に成功しています。
偶然、そうなっているのではなく、意識してそのあたりの完成度を高めているのであろう、と思っています。
関連書籍
この本の作者の一人、G・M・ワインバーグはソフトウェア開発のコンサルタントで、プログラミングに関する本を多く執筆しています。自分は「ライト、ついてますか」に感銘を受けたので、次に「プログラミングの心理学」も読んでみました。自分も仕事柄、プログラミングに触れるので、より深く理解するために、継続してこの手の本を読んでいきたいと思います。
「ライト、ついてますか」と一緒に、「要求仕様の探検学」も買っていましたが、実はまだこの本を読んでいません。「ライト」と比べて、ちょっと読みにくいなと、思ってしまったからです。仕事の経験を少し積んできた今、自分の経験と照らし合わせながら、改めて読みたいと思います。